不動産囲い込みとは?大手の実態と国土交通省の対策についても徹底解説

2025.07.08
区分マンション売却

これから不動産を売却、購入する方にとって不動産の囲い込みは深刻な問題だ。なぜなら売却価格や、売却期間に大きな影響を与えてしまう可能性があるのと、購入者にとっては希望する不動産が購入ができなくなってしまうこともあり得るからだ。本記事では累計50億円以上の不動産売却に携わってきた筆者が囲い込みの仕組みと実態、その対策について解説をさせて頂く。

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不動産の囲い込みとは?

不動産の囲い込みとは、不動産の売却を依頼した不動産会社が、両手取引を成立させるために、不動産情報を他の不動産会社に共有せずに、自社のみで買手を見つける行為のことだ。
通常であれば物件情報は広く公開し、売主の希望価格、希望条件で購入してくれる人を見つけ出すべきであるが、このような囲い込みは売主の利益に反することであってはならない。
しかし、不動産業者が自社の利益のためにこのような行為がまかり通っているのが実態である。また悪質な場合は不動産会社が法律違反を犯している可能性もあるので要注意だ。まずは囲い込みが発生する仕組みを理解しよう。

囲い込みによる両手取引とは何か?

囲い込みによる両手取引とは何か?

不動産会社が受け取る仲介手数料には片手と両手がある。片手とは売主若しくは買主からのみ仲介手数料を得ることと言い、両手とは売主と買主から仲介手数料を得ることを言う。同じ一つの不動産を取り扱う業務において、片手と両手では2倍の売上の違いがあるため、不動産会社は両手取引を狙うケースが多い。

ただし、両手取引を実現するには当然ながら自社で買手を見つける必要がある。もし、先に他の不動産会社が買手を見つけてしまった場合は、片手取引となってしまう。それを防止するために、他の不動産会社に物件情報を共有せずに自社のみで買手を見つける囲い込みが発生するのだ。

媒介契約と囲い込みの実態について

上述したように不動産の囲い込みは売却の依頼を受けた不動産会社であればできてしまうのだが、媒介契約によってはそれができない仕組みになっている。不動産を売却する際に不動産会社と締結する媒介契約は【①一般媒介契約】【②専任媒介契約】【③専属専任媒介契約】の3種類がある。
この内、②と③に関しては不動産物件をレインズ(不動産会社同士が物件情報を共有できるシステム)へ掲載することが義務づけられている。(レインズについてはこちらの記事を参照)つまり他の不動産会社もその物件情報にアクセスができ、自由に紹介ができるということだ。
では②、③の契約を結べば囲い込みは防止できるのかというと、実態はそうではない。悪質な不動産会社はレインズに掲載をしたとしても、あらゆる方法で囲い込みをする。その方法について以下に解説する。
3種類の媒介契約についての詳細はこちらの記事を参照頂きたい

不動産囲い込み

契約予定が無いのに「契約予定です」と言う

レインズに掲載された不動産物件を紹介するには、元付け(売主から売却の依頼を受けた不動産会社)から物件の販売状況の確認や詳細資料を受け取るために、電話やメールで連絡を入れる必要がある。その際に「こちらの物件は契約予定です」と言われるケースがある。それが本当であれば仕方が無いのだが、自社で客付け(買手を見つける)をするために虚偽でこのようなことを言うケースがあるのだ。これは最も悪質であり絶対にあってはならないことだが、このような行為をする業者がいることも知っておく必要がある。

「担当者が外出中です」と言う

元付け業者に連絡をすると「担当者は外出中です」と言われることがある。そこで翌日になって電話をすると「担当者は外出中です」とまた言われる。いつ戻りますか?と聞くと「わかりません」という回答。戻ったら連絡頂けますか?伝えても一向に連絡が無い。結局いつまでたっても物件の販売状況が分からない状態で、詳細資料も受け取ることができずに、紹介を断念してしまうケースがある。
確かに不動産営業マンは外出が多いが、毎日外出していることはありえず、折り返しの連絡ぐらいは入れられるはずだ。外出を装って意図的に物件情報を共有しないとしか思えない。これも囲い込みのための手法の一つだ。

問い合わせをしにくい状態にする

レインズに掲載する情報には「概要」「詳細」「図面」がある。概要と詳細は掲載が必須のため確認ができるが図面については任意となる。問題なのは「概要」と「詳細」だけでは下記の情報の確認をすることができないということだ。

●敷地(土地)の形状
●物件の写真
●住所表示
●建物の間取り
●収益物件であれば賃料収入
●その他細かい条件

そこで「図面」に上記の内容加えて、各不動産会社に物件を紹介してもらい易くするのが通常であるのだが、この図面(いわゆるマイソク)を敢えて作成しないケースがある。

マイソクが無いとその不動産の詳細情報がわからない。つまり、紹介しようにもできないのである。囲い込みを狙っている元付けは当然そのような事はわかっているため、敢えて図面を作らずにレインズに掲載しない。またレインズに図面が掲載されていない物件については、客付け業者も「この物件は囲い込みだな」と理解しているので、時間の無駄を避けるために、問い合わせを避ける傾向がある。

本来であれば広く物件情報を拡散して買手を見つける義務がある元付けがこのような、売主の利益に反する行為をするのはあってはならないことである。

レインズイメージ

マイソク不動産
マイソクイメージ

売主にとって囲い込みのデメリットとは?

売主にとって囲い込み行為はデメリットしかない。まずは売主の希望価格で売れなくなってしまう可能性があること。そして、売却までの期間が通常よりも長くなってしまう可能性も高いのだ。

売却価格が低くなってしまう可能性がある

売却価格が低くなる理由は2つある。1つ目は紹介範囲の限定が要因だ。囲い込みされると物件情報は元付けの顧客にしか届かなくなる。例えば1社辺り100人の顧客がいるとしよう。レインズに掲載して10社から問い合わせがあれば単純に10倍の顧客にリーチができるはずだ。つまりより良い条件で購入してくれる買手に出会う可能性が極端に低くなってしまうのである。

そして2つ目の理由は両手取引とも関係する。前述した通り両手取引によって不動産会社の売上は片手と比べて2倍になる。片手でも両手でも労力はほぼ同じで、売上が2倍になるわけだからこれほど美味しい話しはないだろう。
仮に相場価格2億円の物件を片手で取引きした場合、仲介手数料は①2億円✕3%+6万円=606万円となる。では1.8億円で両手取引となった場合はどうだろうか。②1.8億円✕3%+6万円=1,092万円となる。売却価格が安くなるにも関わらず業者が受け取る仲介手数料は多くなるのだ。では①と②はどちらが買い手を見つけやすいか?当然だが価格が安い②となる。
このような理由で、囲い込みをして両手取引を狙う業者は、自らの利益のために相場よりも安い価格を提示する傾向があるのだ。

適正価格2億円の不動産

売却までの期間が長くなってしまう可能性がある

不動産の売却は決済までに概ね3ヶ月から6ヶ月程度の期間がかかる。しかし、不動産の囲い込みがされると、顧客が限定されるため、売却までの時間が長くなってしまう可能性がある。これは諸事情によりできる限り早く売却をしたいと考えている方にとっては、耐え難いことだ。
例えば、6ヶ月以内での売却を決めていて、6ヶ月経過しても売れない場合どうなるだろうか。おそらく元付け会社は買取業者への売却を提案してくるだろう。買取であれば、最短で1ヶ月もあれば契約から決済まで取引が完了する。しかし、買取金額は概ね相場価格の6〜7割程度になってしまうのだ。売主としては損失しかない。囲い込みをされると最終的に、このような結末となってしまう可能性も充分に有り得ることは理解しておくべきだ。

囲い込みで欲しい物件を買えなくなることもあるのか?

物件を購入しようとしている買手にとって、囲い込みはどのようなデメリットがあるだろうか。例えば買手が◯◯市◯◯町◯丁目で物件を探していたとしよう。仮にそのエリアで売却に出された物件が囲い込みされた場合、買手はその物件情報にたどり着くことはできるだろうか?
囲い込み物件の販路は「①元付け会社の直接客」「②元付会社のHPで掲載」「③ポータルサイトの掲載」「④その他DM等」の概ね4パターンになる。
まずは①については圧倒的に数が少ないため、買手に情報が届く可能性は低いだろう。続いて②、③についてだが、買手が普段からネット検索をするような方であればリーチする可能性はあるが、ネット検索をする習慣がなかったり、そもそも高齢者等でWEBを全く使わない可能性もありえる。
④についても買手にリーチする可能性はかなり低い。また買手が自ら物件を探すことなく、他の不動産会社に紹介を一任していた場合は、その物件に辿り着くことが不可能になってしまうのだ。

大手不動産会社の囲い込みの実態とは?

法令遵守を徹底している大手不動産会社であれば囲い込みなどないだろうと思い、安心して売却の依頼をするケースもあるかもしれないが、大手だからと言って必ずしも安心ではない。囲い込みは会社の規模に限らず、どの不動産会社でも普通に有り得ることだからだ。ではなぜ大手でもその可能性があるのだろうか、そこには不動産業界の仕組みが関係している。

大手不動産会社は囲い込みが多いのか?その理由とは?

ご存知の方も多いかと思うが不動産業界の営業マンは歩合制であることが多い。売上の◯◯%が歩合給として基本給にプラスされる仕組みになっている。歩合給を多く得るには、契約件数を増やすよりも1回の取引で片手取引の2倍の売上を得ることができる両手取引をすることが最も効率的だ。
そこで、担当者の裁量で囲い込みが行われることも多々あるのだ。大手であれば当然、表上は囲い込みは禁止されているが、実態として存在してしまうのはこれが理由となる。
また、支店レベルでも同じようなことが行われているケースもある。支店も当然店舗毎に売上のノルマが定められている。それを達成するために最も効率的な方法が両手取引であるため、囲い込みに手を染めてしまうこともあるだろう。
大手であればあるほど、このようなノルマは厳しい傾向にあり、これが大手だからといって安心ができない理由だ。有名な会社だからと言って盲目的に信じてしまうのではなく、自ら業者の良し悪しを見極める力をしっかりと身につけるようにしよう。

そもそも囲い込みは禁止?法律違反なのか?

では物件の囲い込みは法律違反なのか?実態としてはすべての行為が法律違反とは言えないが、特に悪質な部分に関しては明確に法律違反となる。
国土交通省は不動産の囲い込みが消費者に与える影響を深刻に受け止め2024年6月に宅建業法施行規則を改正し2025年1月に施行された。内容は下記にまとめられている。

そもそも囲い込みは禁止?法律違反なのか?

宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(平成13年国総動第3号)新旧対照条文より

改正されたポイントをまとめると下記の3つとなる

①売主に対して、レインズのステータス管理機能を通じて物件の取引状況を確認することを注意喚起すること。
②宅建業者はレインズ掲載時に売主に発行する「登録済証」を依頼者に交付する際に、ステータス管理機能を分かりやすく説明すること。
③レインズに掲載している取引状況が事実と異なる場合は宅地建物取引業第65条第1項の指示処分の対象となること。

最後の③に注目して頂きたい。レンズに掲載している取引状況と実際の状況が異なる場合(例えば、申し込みが無いにも関わらず申し込みありと掲載しているなど)つまり虚偽記載は明確に違法であることが明記されたのだ。

ステータス管理機能とは?

ステータス管理機能とは、物件の取引状況をレインズ上に登録し他の不動産会社や売主が確認できる機能だ。登録項目には「①公開中」「②書面による購入申し込みあり」「③売主都合による一時紹介中止中」の3つがある。

売主は売主専用画面にアクセスし、売却中の物件がどのステータスになっているのかを確認できるようになっている。仮に業者から何も報告が無いにもかかわらず②や③で掲載されている場合は囲い込みの可能性が極めて高い。
このような事態が発覚した場合、不動産業者は指示処分(差止め、禁止、改善命令等)の対象となる。仮に指示処分に従わなかった場合は業務停止処分や事務禁止命令がなされることになる。

ステータス機能イメージ

ステータス管理機能が使いやすくなった!

また、2025年1月からステータス機能が使いやすくなり売主がよりレインズに掲載されている取引状況の確認をしやすくなった。具体的にはQRコードを読み込むだけで、「①公開中」「②書面による購入申し込みあり」「③売主都合による一時紹介中止中」の3つの状態を確認できるようになっている。

ステータス管理機能

国土交通省不動産・建設経済局不動産業課より

実際にこれで囲い込みは無くなるのか?

このような法改正で囲い込みは本当に無くなるのだろうか。筆者の推測では今までよりも数は減るだろうが完全に無くなることは無いと考えている。
不動産情報の囲い込みの手法は上述した通り3種類ある。「①契約予定が無いのに契約予定という」「②担当者が外出中です」「③問い合わせをしにくい状態にする」
この中で①は明確に宅建業法違反となり、最悪の場合は業務停止になる可能性があるため減るだろう。しかし②と③に関しては、真偽の確認方法が無く、現状の法律では防ぎようが無いのが現状だ。
媒介者がいないと契約が困難な不動産の特性上、囲い込みを完全に防ぐのは、法律だけでは何ともならないのが現状と言えるだろう。

不動産囲い込み対策の対策とは?

上述した通り不動産の囲い込み問題は宅建業法の改正がされたとしても、直ぐには無くなることは無い。では売主側で囲い込みを事前に防ぐ対策はどのような方法があるだろうか?

囲い込みをしているのかをチェックする方法

表面上の情報のみで囲い込みをする不動産業者を極めるのは非常に難しい。また、会社として明確に囲い込みはしないと明言をしていたとしても、担当者レベルで実行されてしまう可能性もある。
例えば、営業マンがフルコミッションの歩合制の給与制度であったり、支店ごとのノルマが非常に厳しいような不動産会社は可能性が高い。
その他にも、その会社のHPに掲載されている物件を使って買い込みをチェックする方法もある。例えばA物件が掲載されているとしよう。専任媒介、専属専任媒介契約の場合はレインズに掲載され、他の不動産会社も紹介ができる。よって他の不動産会社にA物件がレインズに掲載されているか確認をする。掲載されていた場合、詳細資料の取り寄せをしてもらおう。もし、資料共有をしてもらえないのであれば囲い込みが行われている可能性が高い。ひと手間はかかるが、その不動産会社の実情はわかるだろう。

レインズに掲載する場合は管理ステータス機能を活用する

前述した通り、売主はレインズに表記されている管理ステータスを確認することができる。レインズ掲載時に不動産会社が発行する「登録証明書」に記載されている2次元コードを読み込めば簡単に売主専用画面にアクセスすることができるのだ。
表記「①公開中」「②書面による購入申し込みあり」「③売主都合による一時紹介中止中」と、実際に報告を受けている実情が異なる場合は宅建業法違反となる。そもそも、登録証明書を送ってこなかったり、管理ステータスについて詳細な説明が無い場合は、何か裏がある可能性もあるので気をつけよう。

登録証明書

国土交通省不動産・建設経済局不動産業課より

囲い込みをした不動産業者を通報する

もし囲い込みの事実が発覚し、状況が深刻な場合は通報も視野にいれよう。連絡先は、宅建業者を管轄する都道府県(東京都の場合は不動産業課内に東京都不動産取引特別相談室が設けられている)、また宅建協会も消費者専用の窓口を設けている。被害が大きく訴訟に発展しそうな場合は弁護士への相談も考えよう。いずれにしても、主張の根拠となる資料(メールやり取り、ステータス管理機能のスクリーンショットなど)を事前に準備しておくと、やり取りもスムーズとなるだろう。

最後にまとめ

不動産の囲い込みは、不動産業者の利益(両手取引)のために、物件情報を故意に他の不動産会社に紹介せず、物件の成約可能性を極端に狭めてしまう。結果、顧客である売主や買主の利益が阻害されてしまい、不動産の公正な取引を害してしまうあってならない行為だ。
しかし、現実的には売主と買主の間に媒介者が存在する不動産取引特有の環境下では、今直ぐに無くすことは難しい。よって売主、買主である消費者自ら囲い込みの仕組みを理解し、管理ステータス機能を活用するなど、能動的に行動してもらうことで少しづつ状況は改善していくのではないかと思う。
また、当社のように売主ファーストを掲げ、売主の利益にコミットをし実績のある不動産会社を選ぶのも一つの手だ。売却に関してご相談、お悩みがあればいつでも相談頂きたい。

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