住宅ローンの支払いが厳しくなってきて……任意売却って誰でもできるんでしょうか?
実は“誰でもできる”わけではありません。
債権者や共有者の同意が得られなかったり、手続きのタイミングを逃すと任意売却が進まないケースもあります。
ただ、正しい流れを知っておけば防げることも多いですよ。
住宅ローンの返済が困難などを理由に任意売却を検討しても、手続きが進まないことがある。債権者の同意が得られない、すでに差押えを受けているなど、その原因は様々だ。
本記事では、任意売却ができない9つの具体的な原因を解説する。さらに、競売を回避するための対処法や、リースバックといった代替策まで網羅的に紹介する。
この記事を読めば、自身の状況を客観的に判断し、最善の解決策を見出すための確かな知識が得られるはずだ。
目次
任意売却とは
任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になった場合に、債権者である金融機関の同意を得て不動産を売却する方法だ。通常の不動産売却と異なり、売却代金でローン残債を完済できない状況でも実行できる点が特徴だ。
債務者と債権者が話し合いによって売却条件を決めるため、競売と比べて市場価格に近い金額での売却が期待できる。ただし、金融機関や関係者全員の合意が必要となるため、手続きには時間と労力がかかる場合が多い。
任意売却と競売の違い
任意売却と競売の最大の違いは、売却価格と手続きの主導権にある。任意売却では債務者が不動産会社と連携して販売活動を行うため、市場価格の7~9割程度での売却が可能だ。
一方、競売では裁判所が主導して強制的に売却が進められる。競売価格は市場価格の5~7割程度と低く、入札者が現れなければさらに価格が下がる仕組みだ。
また、任意売却では引っ越し時期や条件について交渉の余地があるが、競売では落札者の都合に合わせて退去しなければならない。プライバシーの面でも、任意売却の方が近隣に事情を知られにくいメリットがある。
| 項目 | 任意売却 | 競売 |
| 手続きの主体 | 所有者・債権者 | 裁判所・債権者 |
| 売却価格 | 市場価格に近い7~9割 | 市場価格の5〜7割程度 |
| プライバシー | 守られやすい | 情報が公開される |
| 引渡し時期 | 交渉で調整可能 | 強制退去 |
| 残債務の交渉 | 可能 | 原則として不可 |
任意売却のメリット
任意売却の最大のメリットは、競売よりも高い価格で売却できる可能性が高いことだ。市場価格に近い金額で売却できれば、残債務を大幅に減らすことができる。
引っ越し費用の確保についても交渉が可能で、売却代金から30~100万円程度を引っ越し費用として受け取れるケースが多い。競売では引っ越し費用の確保は期待できないため、大きな違いといえる。
さらに、任意売却では売却時期や引き渡し条件について債権者と相談できるため、新居探しや子供の転校時期に配慮した計画を立てることが可能だ。
任意売却のデメリット
任意売却には手続きの複雑さというデメリットがある。金融機関をはじめ、抵当権者や連帯保証人など関係者全員の同意を得る必要があり、調整に数か月かかることも珍しくない。
売却活動中も住宅ローンの滞納はつづくため、信用情報に事故情報が登録される。この影響で新たなローンやクレジットカードの利用が5~7年程度制限される可能性が高い。
また、任意売却が成立しなかった場合は自動的に競売手続きに移行するため、時間的なプレッシャーの中で判断を迫られることになる。専門知識が必要な手続きも多く、適切な業者選びが成功の鍵を握っている。
任意売却の流れと必要な期間
任意売却の手続きは、まず金融機関への相談からはじまる。住宅ローンが滞納になる前、または滞納初期の段階で相談することが重要だ。
金融機関から同意を得られれば、任意売却を専門とする不動産会社と媒介契約を結ぶ。価格査定を行い、債権者と売却価格の下限について協議を進める。
販売活動開始から売却完了まで、通常3~6か月程度の期間が必要となる。ただし、競売開札日がせまっている場合は、より短期間での売却を求められることもある。手続き全体を通じて、弁護士や司法書士などの専門家と連携することが成功への近道といえる。
任意売却を検討する主なケース
任意売却は「住宅ローンの返済が難しい」「離婚で家を手放す必要がある」「自己破産の手続きを進めている」など、さまざまな事情で住宅ローンの支払いが困難になった人が検討する方法だ。
特に、返済遅延や競売の可能性が見え始めた段階で行動することで、経済的損失を最小限に抑えられる点が重要だ。
住宅ローンの返済が困難な場合
最も多いのが、収入減や支出増により住宅ローンの返済が難しくなるケースだ。ボーナスカットや転職、病気による収入低下が主な原因となる。返済がとどこおると延滞金が発生し、最終的に競売へ移行するリスクが高まる。
金融機関に早めに相談することで「返済条件の見直し」が可能な場合がある。一定期間の返済額を減らす「リスケジュール(返済条件緩和)」措置を受けられるケースもある。これにより延滞を防ぎ、生活を立て直す時間を確保できる。
それでも返済が難しい場合には、任意売却を検討することが現実的な選択肢となる。競売よりも高く売却できる可能性があり、債務残高を減らしながら生活再建を図ることができる。
住宅ローン滞納についてはこちらの記事も合わせて読んでいただきたい。
「住宅ローン滞納でどうなる?差し押さえの流れと解決策を徹底解説」
離婚による住宅売却が必要な場合
離婚をきっかけに住宅を手放すケースも多い。特にペアローンを組んでいる場合、どちらか一方が金融機関に相談しても、リスケジュール(返済条件緩和)の措置を受けられず、片方が住宅を手放しても、もう一方に返済義務が残る点が問題となる。名義や返済分担が複雑なため、任意売却による整理が選ばれることが多い。
住宅ローンの残高が売却価格を上回る(オーバーローン)の状態であっても、債権者(金融機関)と合意が得られれば任意売却は可能だ。売却によって債務の一部を返済し、残りの債務については分割払いなどの交渉を行うことができる。
このようなケースでは、弁護士や不動産会社など専門家のサポートをうけながら、手続きを進めることでトラブルをふせぎ、スムーズな解決につながる。
自己破産や債務整理をしている場合
自己破産や任意整理など、債務整理の手続きを行っている最中でも任意売却は可能だ。特に、破産手続き前に任意売却を実施することで、競売よりも高値で売却できる可能性があるため、債務者にとって有利な選択となる。
ただし、破産管財人が選任されると、売却の権限は管財人に移る。そのため、破産手続きの進行状況によっては、任意売却の実施時期が制限されることもある。早期に専門家へ相談し、最適な手続きを選ぶことが重要だ。
また、債務整理後でも金融機関や債権者と協議の上、任意売却を進められる場合もある。法的手続きと並行して適切に対応すれば、残債処理を円滑に進め、生活再建の第一歩を踏み出すことができる。
任意売却できない主な9つのケース

任意売却は住宅ローンの返済が困難になった際の有効な手段だが、すべての状況で実行できるわけではない。金融機関や関係者の合意、法的な制約、時間的な制限など、様々な要因によって任意売却ができないケースが存在する。
以下では任意売却ができない具体的な9つのケースを詳しく解説し、それぞれの状況と対処法について説明する。自分の状況がこれらに該当するかを確認することで、適切な対策を講じることが可能となる。
①住宅ローンを滞納していない場合
住宅ローンを一度も滞納していない状況では、金融機関が任意売却に同意しないケースがほとんどだ。銀行にとって延滞のない債務者は優良顧客であり、売却を急ぐ必要性を感じないためである。
例えば、月収が30%減少して返済が苦しくなった場合でも、実際に滞納が発生していなければ金融機関は条件変更やリスケジュール(返済条件緩和)を提案する。任意売却の承諾を得るためには、通常3~6か月程度の滞納期間があることが前提となる場合が多い。
ただし、計画的な滞納は信用情報に大きな影響を与えるため、まずは金融機関との相談を通じて返済条件の変更や借り換えを検討することが重要だ。どうしても返済継続が困難な場合は、専門家に相談して最適なタイミングを見極める必要がある。
②競売開始が迫って時間的余裕がない場合
競売の開札日まで1~2か月程度しかない場合、任意売却の手続きを完了させるのは困難となる。任意売却には債権者との協議、価格査定、販売活動、買主との契約など複数の段階があり、最低でも3か月程度の期間が必要だからだ。
具体的には、競売開始決定通知が届いてから開札日まで約6か月の期間があるが、この期間を有効活用できなかった場合に時間切れとなる。特に販売活動に2〜4か月かかるため、遅くとも競売開始決定から2か月以内には任意売却の準備を始める必要がある。
時間的余裕がない場合の対策として、不動産会社による直接買取や、競売の取り下げ申請による期間延長などの方法がある。ただし、これらの方法も確実ではないため、できるだけ早期の対応が求められる。
③売却価格がローン残高を大きく下回る場合(オーバーローン)
売却予想価格がローン残債を大幅に下回る場合、金融機関が任意売却に同意しない可能性が高くなる。特に残債との差額が1000万円以上になるような極端なオーバーローン状態では、債権者にとって任意売却のメリットが少なくなるためである。
ローン残債3,000万円の物件が1,500万円でしか売却できない場合、1,500万円の債権放棄を金融機関に求めることになる。このような大幅な損失を避けるため、金融機関は競売を選択するケースが増える傾向にある。
オーバーローンでも任意売却を成功させるには、残債務の返済計画を具体的に提示することが重要だ。月々の返済可能額を示し、自己破産を避けたい意思を明確に伝えることで、金融機関との交渉を有利に進められる場合がある。
④金融機関や債権者の同意が得られない場合
住宅ローンを借りている金融機関が任意売却に同意しなければ、手続きを進めることはできない。特に地方銀行や信用金庫など、任意売却の経験が少ない金融機関では消極的な対応を取られることがある。
債権者が複数いる場合は、すべての債権者から同意を得る必要があり、一つでも反対があれば任意売却は実行できない。住宅ローンの他にリフォームローンや車のローンがある場合、それぞれの債権者との調整が必要となる。
金融機関の同意を得るためには、任意売却専門の不動産会社や弁護士を通じた交渉が効果的だ。専門家が債権者のメリットを具体的に説明し、競売との比較データを示すことで同意を得られる可能性が高まる。
⑤抵当権者が複数いて調整できない場合
住宅に複数の抵当権が設定されている場合、すべての抵当権者間での調整が必要となる。第一抵当権者(通常は住宅ローンの銀行)だけでなく、第二抵当権者以下との交渉も合意を得なければならない。
例として、住宅ローン2,500万円の第一抵当権と、リフォームローン500万円の第二抵当権が設定されている物件が2,0000万円で売却される場合、第二抵当権者は配分を受けられない可能性が高い。このような状況では、第二抵当権者が任意売却に反対するケースが多い。
複数抵当権者の調整には、各債権者のメリットを明確にし、場合によっては債権者間での配分調整を行う必要がある。専門的な知識と交渉スキルが求められるため、経験豊富な任意売却専門業者への依頼が不可欠となる。
⑥共有名義人や連帯保証人の同意が得られない場合
不動産が共有名義になっている場合、すべての共有者の同意がなければ任意売却はできない。夫婦共有名義の場合、離婚調停中で配偶者と連絡が取れない状況や、一方が任意売却に反対している場合に手続きが停止することがある。
連帯保証人については、現在の住宅ローンでは保証会社を利用するのが一般的であり、個人の連帯保証人を立てるケースは少ない。ただし、過去の契約や、子の住宅ローンに対して親が自己所有不動産を追加担保として提供するなど、親族が保証人や担保提供者となっている場合もある。こうした事例は非常にまれだが、関係者の同意が得られない限り、任意売却の手続きは進まない。
共有名義人や連帯保証人の説得には、競売になった場合のデメリットを具体的に説明することが効果的だ。任意売却により残債務を減らせることや、競売による強制執行を避けられることを丁寧に説明し、理解を求める必要がある。
⑦税金や保険料を滞納して差押えを受けている場合
固定資産税や住民税などの税金を滞納し、不動産が差押えを受けている場合は任意売却ができない。差押えが解除されない限り、所有権の移転ができないためだ。
国民健康保険料や国民年金保険料の滞納による差押えも同様で、これらの公租公課の滞納は民事債権よりも優先される。滞納額が100万円を超えるような場合、売却代金での一括返済が困難になり、任意売却自体が不可能となる。
差押え解除のためには、滞納税額の完済または分割納付の合意が必要となる。市町村の税務課との交渉により、売却代金からの優先弁済について合意を取り付けることで、任意売却が可能になる場合もある。
⑧所有者が所在不明や認知症などで手続きが困難な場合
不動産の所有者が行方不明になっている場合や、認知症により判断能力が低下している場合は、任意売却の手続きを進めることができない。所有者本人のいしかくにんと署名押印が必要な契約行為だからだ。
高齢の親が認知症になり、子供が代理で任意売却を進めようとしても、成年後見制度の利用が必要となる。後見人の選任には数か月かかる場合があり、その間に競売手続きが進行してしまう可能性がある。
所在不明の場合は不在者財産管理人の選任、認知症の場合は成年後見人の選任を家庭裁判所に申立てる必要がある。これらの手続きには時間がかかるため、早期の対応と法的手続きの並行実施が重要となる。
⑨販売活動が不十分で買い手がつかない場合
任意売却では一般的な不動産売却と同様に買主を見つける必要があるが、販売活動が不十分だと買い手がつかずに競売となってしまう。特に地方の物件や特殊な立地条件の物件では、購入希望者を見つけるのに時間がかかる。
価格設定が市場相場と離れている場合や、物件の魅力を十分にアピールできていない場合も買い手がつかない原因となる。任意売却では時間的制約があるため、適正価格での迅速な売却活動が求められる。
販売活動を成功させるには、複数の不動産ポータルサイトへの掲載、適切な価格設定、物件の魅力を伝える資料作成などが重要だ。任意売却に精通した不動産会社を選び、積極的な販売戦略を展開することで買主を見つけられる可能性が高まる。
任意売却できないとどうなる?

任意売却が成立しなかった場合、所有者が直面する未来はきわめて厳しいものとなる。最終的には、不動産は裁判所によって強制的に売却される「競売」にかけられてしまう。その結果、任意売却に比べて多額の債務が残り、自己破産を余儀なくされるリスクが高まる。
競売にかけられてしまうリスク
任意売却ができない場合、債権者は貸付金を回収するため、裁判所に申立てて不動産を競売にかける。競売は所有者の意思とは無関係に進む法的手続きであり、多くのデメリットを伴う。
最大のリスクは、売却価格が著しく低くなる点だ。競売での落札価格は、市場価格の5〜7割程度が相場とされ、任意売却に比べて大幅に安くなる。また、物件情報がインターネットや新聞で公告されるため、プライバシーが侵害される。さらに、引渡し時期の交渉は一切できず、落札者が決まれば強制的に退去を命じられることになる。
残債務が減らず自己破産に至る可能性
競売によって不動産が安値で売却されると、当然ながら住宅ローンの残債務は多く残る。任意売却であれば交渉可能な残債務の分割返済も、競売後では債権者が応じないケースがほとんどだ。債権者は残った債務の一括返済を求めてくるのが原則となる。
ローン残高3,000万円に対し、競売で2,000万円でしか売れなかった場合、1,000万円もの債務が残る。この返済が不可能と判断されると、給与の差押えといった強制執行を受ける可能性もある。最終的に、この状況を解決する手段として自己破産を選択せざるを得なくなるケースは少なくない。
任意売却できない事態を防ぐための対処法

任意売却が成立しない最大の原因は、対応の遅れや関係者間の調整不足にある。住宅ローンの返済が厳しいと感じた段階で早めに行動することが重要だ。金融機関や専門家に相談し、現実的な返済計画を立てることで、競売を回避できる可能性が高まる。特に、滞納がつづく前に行動を起こせば、任意売却の選択肢を残せる。
また、売却活動をおこたらず、情報開示を正確に行うことも大切だ。価格設定や広告戦略を見直し、購入希望者に安心感を与える対応を心がけることで、早期売却につながる。さらに、弁護士や不動産会社と連携し、法的手続きや交渉を適切に進めることで、任意売却の成功率を高められる。
早めに金融機関へ相談する
任意売却を成功させるには、金融機関への早期相談が欠かせない。返済がとどこおる前であれば、リスケジュール(返済条件緩和)によって一時的に返済額を減額できる場合がある。これにより、延滞を防ぎながら生活の立て直しを図ることができる。
滞納が長期化すると、金融機関の信頼を失い、競売の手続きが進行してしまう。問題を先送りせず、誠実に現状を説明することで、柔軟な対応を得られる可能性が高い。返済計画の見直しを含め、任意売却以外の選択肢を検討することも重要である。
売却活動に力を入れる
任意売却を円滑に進めるには、売却活動の質が重要になる。特に、価格設定が相場より高すぎる場合や、内覧対応が不十分な場合は買い手が見つかりにくい。現実的な価格設定と、物件の魅力を伝える写真・広告が成約の鍵となる。
また、任意売却では通常の仲介よりもスピードが求められるため、迅速な対応が欠かせない。販売状況を定期的に見直し、必要に応じて戦略を修正することで、より高い確率で買い手を確保できる。
任意売却に強い不動産会社へ依頼する
任意売却は、債権者との交渉や複雑な権利調整など、特殊な知識と経験を要する。そのため、通常の不動産売買しか扱ったことのない会社ではなく、任意売却の実績が豊富な専門の不動産会社へ依頼することが成功の絶対条件となる。
信頼できる不動産会社を見極めるには、以下の点を確認するとよい。
| ●任意売却の取扱実績が豊富か ●金融機関などの債権者との交渉ノウハウを持っているか ●弁護士や司法書士といった専門家との連携体制が整っているか |
悪質な業者に注意することも必要だ。高額な手数料を要求する業者や、確実な成功を保証する業者は避けるべきだ。任意売却の手数料は通常の仲介手数料と同額が基本であり、成功報酬以外の費用を事前に請求する業者は信頼性に疑問がある。
弁護士や専門家と連携して進める
任意売却では、法的手続きや債権者調整が複雑化することが多い。特に共有名義や保証人が関わるケースでは、弁護士の助言を受けながら進めることが望ましい。法的リスクを最小限に抑え、トラブルを未然に防ぐことができる。
また、弁護士と不動産会社が連携すれば、債務整理や任意整理を併用する選択肢も取れる。状況に応じた最適な解決策を見つけるには、複数の専門家の知見を組み合わせることが有効だ。
任意売却ができない場合の代替策
| 方法 | 内容 | メリット | デメリット |
| リースバック | 自宅を売却後に賃貸として住み続ける | 住み慣れた家にそのまま住める | 家賃が高め・買戻し価格が高い |
| ローン条件変更・借り換え | 金融機関と返済条件を再交渉 | 自宅を手放さずに済む | 審査が必要・時間がかかる |
| 不動産会社の直接買取 | 業者が自ら購入 | 即現金化・確実に売れる | 相場より価格が低い |
任意売却ができないケースでも、競売を回避するための代替策は複数存在する。これらの方法を活用することで、住まいを維持したり、より有利な条件で問題を解決したりすることが可能だ。
以下の3つの代替策は、それぞれ異なる状況に適用できる解決方法である。自分の経済状況や将来の見通しを考慮して、最適な選択肢を検討することが重要となる。
リースバックを利用して住み続ける
リースバックは不動産会社や投資家に自宅を売却した後、賃貸として住み続けることができる制度だ。住宅ローンの返済がむづかしい場合でも、住み慣れた家を離れる必要がないため、子供の転校や生活環境の変化を避けることができる。
売却代金で住宅ローンを完済し、その後は家賃として月々の支払いを行う仕組みとなる。家賃は一般的な賃貸相場よりもやや高めに設定される場合が多いが、引っ越し費用や敷金礼金などの初期費用が不要となる利点がある。
将来的に経済状況が改善した際には、買い戻し特約により再度購入することも可能だ。ただし、買い戻し価格は売却時よりも高く設定されることが一般的で、買い戻し期間にも制限があるため、契約前に十分な検討が必要だ。
住宅ローンの条件変更や借り換えを検討する
住宅ローンの返済が困難な場合、金融機関との交渉により返済条件を変更することで問題を解決できる可能性がある。返済期間の延長、一定期間の元金据え置き、金利の見直しなどの方法により、月々の返済負担を軽減することができる。
条件変更が認められれば、自宅を手放すことなく住宅ローンを継続できるため、最も理想的な解決策といえる。金融機関にとっても不良債権化を避けることができるため、債務者の返済意思と返済能力があれば協力的な対応を得られる場合が多い。
他の金融機関への借り換えも有効な選択肢で、より低い金利での借り換えにより月々の返済額を削減できる。ただし、借り換えには審査があり、収入減少や信用状況の悪化により審査に通らない場合もあるため、早期の検討と申し込みが重要となる。
不動産会社による直接買取を選ぶ
不動産会社による直接買取は、仲介による売却活動を行わず、不動産会社が自ら物件を購入する方法だ。買主を探す時間が不要なため、競売開始がせまっている状況でも迅速に現金化することができる。
買取価格は市場価格の70~80%程度となるのが一般的だが、仲介手数料が不要で確実に売却できるメリットがある。任意売却の時間的余裕がない場合や、立地条件が悪く買主が見つからない物件では、有効な選択肢となる。
買取後のリースバック契約を併用することで、売却と同時に賃貸契約を結び住み続けることも可能だ。この方法により、競売を回避しながら生活の安定を維持できるため、特に高齢者世帯や子育て世帯にとって有益な解決策となる場合がある。
任意売却に関するよくある質問(Q&A)
任意売却を検討する際、多くの方が共通の疑問を抱える。ここでは、任意売却ができない具体的なケースや、離婚、滞納期間といった個別の状況に関する質問に対し、専門的な観点から明確に回答する。
任意売却ができないのはどんなケースか?
任意売却ができないケースは、主に「関係者の同意が得られない」「時間的余裕がない」「金銭的問題が解決できない」の3つのパターンに集約される。これらは任意売却の根幹を揺るがす問題だ。
具体的には、本記事で解説した以下の9つのケースが挙げられる。
| ●住宅ローンを滞納していない ●競売開始が迫り時間がない ●売却価格がローン残高を大きく下回る ●金融機関や債権者が同意しない ●抵当権者が複数いて調整できない ●共有名義人や連帯保証人が同意しない ●税金滞納で差押えを受けている ●所有者が手続き困難な状況にある ●買い手がつかない |
これらのいずれかに該当する場合、任意売却の実現は困難になるため、早期に専門家へ相談する必要がある。
離婚した場合でも任意売却できるのか?
離婚を理由とする場合でも、条件を満たせば任意売却は可能だ。ただし、通常の任意売却以上に複雑な調整が必要となる。特に重要なのは、不動産の共有名義人である夫婦双方の売却への同意だ。
ペアローンを組んでおり不動産が共有名義の場合、どちらか一方の意思だけでは売却できない。
また、売却価格が住宅ローン残高を下回るオーバーローンの状態であれば、金融機関の同意も必要となる。売却後の残債務を夫婦のどちらが、どのような割合で負担するのかについても、事前に取り決めなければならない。
感情的な対立も生じやすいため、弁護士など第三者の専門家を交えて冷静に協議を進めることが、円滑な解決の鍵となる。
住宅ローン滞納後、どのくらいの期間まで任意売却できるのか?
任意売却が可能な期間の目安は、住宅ローンを滞納してから競売の「期間入札通知」が裁判所から届くまでの間だ。一般的に、滞納開始から約6か月から1年程度がタイムリミットとなる。
住宅ローンを3〜6か月滞納すると、債務者は「期限の利益」を喪失し、金融機関は競売の申立て準備に入る。裁判所が競売開始を決定し、物件の現地調査などを経て、入札期間を定めた「期間入札通知」が届いた時点で、任意売却は事実上不可能となる。
これは、債権者が多額の費用をかけて進めた競売手続きを取り下げるメリットがなくなるからだ。したがって、任意売却は時間との勝負であり、1日でも早い行動が求められる。
債権者が同意しない場合の対処法はあるか?
債権者が同意しない場合でも、交渉によって状況を打開できる可能性はある。そのためには、債権者がなぜ同意しないのか、その理由を正確に把握することが重要だ。
債権者が難色を示す主な理由は、提示された売却価格が低すぎる、あるいは残債務の回収計画に納得できないといった点にある。
この場合、任意売却に精通した不動産会社を通じて、客観的な査定額や市況に基づいた販売計画を提示し、競売よりも多くの債権を回収できることを論理的に説明することが重要だ。また、複数の債権者がいる場合は、専門家が各々の立場を考慮した配分案を作成し、粘り強く交渉することで合意形成を目指す。
個人での交渉は難航する場合が多いため、交渉力のある専門家のサポートが不可欠だ。
まとめ|任意売却できないケースを把握し早めに専門家へ相談しよう
本記事では、任意売却ができない9つの具体的なケースとその対処法を解説した。任意売却は、競売を回避し、市場価格に近い価格で不動産を売却するための有効な手段である。
しかし、成功のためには、金融機関や連帯保証人といった関係者の同意、そして競売開始までの時間的猶予が必要不可欠となる。もし任意売却が不成立に終われば、市場価格より大幅に安値で自宅が売却され、多額の債務が残る競売へと進むリスクがある。
こうした事態を避ける最も確実な方法は、住宅ローンの返済に不安を感じた時点で、速やかに専門家へ相談することだ。一人で抱え込まず、任意売却に精通した不動産会社や弁護士の助けを借りることが、問題解決への最も賢明な第一歩となる。
